高校生のスポコン、だけじゃない面白さ~『灼熱カバディ』紹介
私の枯れたマンガライフに
会社員になった位から、少年漫画をほとんど読まなくなってしまった。
自分と同じ年代の主人公が人生や配偶者との関係に悩んでる漫画ばっかり読んでるし、
なんなら最近は倉科遼の『女帝』とか熱をもって読んでいた。いや、おっさん漫画だけど、普通に面白かったんだよ。
そんな枯れ切ったマンガライフを送っていた私が、突然高校生が主人公のスポコン漫画にはまってしまった。
それが『灼熱カバディ』という、小学館のサイトで2015年から連載されている作品だ。
2020年3月時点で既刊13巻。現在も連載中である。
連載中の漫画をレビューするというのは、ちょっと勇気のいることだ。
今後なんかうまくいかなくて、期待をよそに打ち切りになるかもしれないし、昨今の事例を見るにメディアミックスの際にいらん事して炎上する可能性もある。
そんなことになったらいたたまれない…と思いつつ、面白いマンガなので忘備もかねてブログに感想を書いておこうと思う。
あらすじと簡単な紹介
カバディはネタじゃない…熱いスポーツだ!
スポーツ嫌いの元サッカー有名選手・
宵越竜哉(高1)のもとに、
ある日『カバディ部』が勧誘に!
「カバディなんてネタだろ(笑)」と
内心バカにしつつ練習を見に行くと、
そこではまるで格闘技のような
激しい競技が行われていて……!!!
私は一般的な日本人よりインド映画を観ていると思うのだが、恥ずかしながらカバディがインドの国技だと初めて知った。
いやいや、インド映画のインド人、みんなクリケットばっかり見てるやん!むしろクリケットが国技かと思ってたくらいだよ・・・。
私が覚えてるインド映画のカバディって、『ディアライフ』の中でアーリヤー・バットとシャー・ルク・カーンが「カバディカバディカバディ・・・」と言いながら波と戯れるシーン位だった。それも美しく印象的だが、全く本編と関係のない一瞬のシーンである。
それくらいの印象しか持っていなかった自称インド映画ファンの私、まさか日本の高校生の部活動マンガでカバディを詳しく知ることになろうとは、夢にも思っていなかった。
カバディってみんな知ってる?私は上の映画のシーンを見たときに「カバディってなんだっけ、スポーツだったか…?」とふんわり思ったくらいだった。だいたいの日本人が、それくらいの印象しか持ってないんじゃないか。
いやむしろ、あまり言いたくないが、ちょっと馬鹿にしてるんじゃないか。
上に引用したあらすじにもやたらと「ネタ」という言葉が使われているが、第一話の主人公、元サッカーのエース選手だったヨイゴシのカバディへの反応はひどいものである。
見たことはないがネットとかでよくネタにされてる・・・「カバディ」と連呼して走るアホくさいスポーツだろ?
まあ所詮くだらないイロモノスポーツだしな・・・
ひどい言いようである。そんな「スマート」を信条とする主人公ヨイゴシがひょんなきっかけ(策略?)でカバディ部に入り、徐々にのめり込み、仲間と一緒に全国大会優勝を目指すのが、この『灼熱カバディ』というマンガである。
みどころその1:カバディの魅力が活かされたストーリー
たいていの日本人が知らないであろうカバディのルール、そして戦略や技。
一つ一つが丁寧に説明されており、そしてストーリーときっちりシンクロしているのが魅力である。
主人公のヨイゴシもカバディ初心者なので、一緒に驚き、時に突っ込みながらカバディ知識を深めていける。最初は「何人でやるスポーツなの?」というレベルから丁寧にストーリーに組み込まれており、スポーツに苦手意識のある私でも、苦も無く読み進めることができた。
これが野球とかサッカーが題材の漫画だとこうはいかないだろう。これについてはカバディを題材としたことが「勝ち」であるように思われる。
さらにカバディという競技の特性とストーリーの起伏が上手く絡まっており、題材で奇をてらっただけの漫画ではない。既刊13巻まで中だるみせず一気に読み進められてしまう。
「カバディという競技は、ゴールではなく人から点を奪う。
誰が点を取られたのか明確にわかる。
だからこそ、誰の責任など口にするべきじゃない。
原始的なようで品格を問われる。
後悔は成長に必要な感情だが、自分の中にあれば充分だ。
僕の涙の意味はこうさ。
悔しくて泣けるほど、最高のチームだった。」
ある選手が試合の後にチームメイトにかけるセリフだ。競技の特性と選手としての精神とチームメイトとの関係を一言で感じさせる名台詞である。
こういう競技の特性を活かしたセリフやシチュエーションが随所に盛り込まれており、読んでてグッとくるんである。
みどころその2:マイナーな競技、何ものでもない高校生
作品内のカバディの競技人口は、ストーリーの関係上、現在の日本のそれよりも多めに設定されているらしい。
それでも作品内のカバディというスポーツの立ち位置は微妙である。
元サッカー少年の主人公は大会の規模の小ささに驚き、カバディ協会の会長はメディアの注目を集めるために、他のスポーツで名を挙げた選手を餌に記者を集めたりしている。
そして読んでいて一番腹が立つのが、同じ高校の他の運動部員から「マイナー」「弱小」と見下されるシーン。競技としてもマイナーだし、主人公が入る部は当初公式戦に出られる人数も在籍しておらず、助っ人を入れて挑む公式戦では常に初戦敗退の弱小チームである。
もちろんこれは「フリ」でもある。見くびられている者がサクセスする姿は見ていて胸がすく。
サッカー部や野球部のメンバーや監督が主人公たちの試合を応援に来る、なんてシーンがあるのだが、このシーンを見た時の嬉しさというのは、「メジャー」なスポーツが題材の漫画ではあまり味わえないと思う。
そしてこの漫画、マイナーで立場の弱いカバディという競技が「社会的」に地位を確立していく様が、何ものでもない高校生たちの成長とリンクしているように見えるのだ。
それが読んでいて、なんだか美しいものを見せてもらったなー、という気持ちにさせられるのがとてもいい。*1
みどころその3:実力・戦略・メンタリティのバランス
スポーツにおける勝敗を描くとなると、主人公やチームの主力メンバーがどんどん実力をつけて、それを試合で発揮する様が見せ場になるものだろう。
しかしこの漫画、「強い選手のスーパーテクニック」と同じくらい「戦略」と「選手のメンタリティ」に描写の重心が置かれており、私のような枯れた志向の人間でもじっくり読ませるものがある。
すごい実力を持っていてもチームとしての戦略がダメだと勝てないし、チームとしての戦略が完璧でも、選手のメンタリティをケアしないとやっぱり勝てない。もちろんメンタリティが盤石でも、実力がないと勝てない。
この三つがいいバランスになって初めて勝てる、という「しばり」はこの漫画に一貫している価値観である。
卑近な話になるが、会社員をやって10年、この「しばり」は何となく馴染みがある。
組織でいいパフォーマンスをするというのは、この「しばり」の上でどうバランスをとるかにかかっているといっても過言ではない。
基本的にキラキラした高校生が熱い汗を流す眩しい漫画なのだが、そういう組織論みたいなものに突然肉薄してくるので、「わかるわあ・・・」と身につまされながらページをめくることも多い。
ここで読めるよ
灼熱カバディ、第一話はここで無料で読めるので、気になったらぜひどうぞ。
私はここで何冊分か話を試し読みした結果、コミックを一気に買ってしまった。
カバディが題材のインド映画
カバディに興味が湧きだしたら、インド映画でも題材にしている作品が目に入るようになった。インド映画で取り上げられてないんじゃなくて、自分が興味ないときは目に入ってなかっただけなのかもしれない。
下は2020年1月にインドで公開された作品。
引退したカバディ選手が結婚出産を経て復帰するという筋書きだそうだ。トレイラーに漫画で観たスーパープレイがちょこっと移っており興奮した。日本でも公開されないかな。
Panga | Official Trailer | Kangana | Jassie | Richa | Dir: Ashwiny Iyer Tiwari | 24th Jan, 2020