アウトドア関係の書籍には、「遭難ドキュメント」と呼べるようなジャンルが存在する。
遭難したときにパニックになってはいけないというのは山登りの鉄則である。
冷静さを欠いた状態では正しい判断ができず、結果的に死に直結するような行動をとってしまうこともあるという。道に迷って谷筋に降りるとか、暗くなっても歩き回るとかそういうやつだ。
とはいえ突然訪れた初めて体験するトラブルに、いつでも冷静に対処できる人は少ないだろう。
遭難サバイバーの実例を事前に知っておけば、「もしも」のときにも少し冷静さを取り戻せるかもしれない。
遭難しない山はない、遭難リスクのない人はいない。
山に登る者すべてが遭難を想定して心がけをしておくべきである。
アルテイシア氏の『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』を読んだとき、「これは遭難ドキュメントだな」と思った。
本書はアルテイシア氏のここ数年の生活に関するエッセイだ。
別に過剰にキラキラもギラギラもしていない普通の40代女性の子宮摘出だったり母親の死だったり、父親の死だったり、葬式だったり親の借金だったりがつづられている。そしてこの内容で信じられないが、とにかく細かく笑わせてくる。
とはいえ本書は「他人の不幸は蜜の味」的なのぞき見趣味のエッセイではないし、ひたすら面白おかしいことを書き連ねたギャグエッセイでもない。
人生で遭難したとき、私はこうして生還しました、という事が随所に書かれている。
本書ではまず人生における「遭難」が何なのかが示されている。
毒親や病気や借金はまだわかりやすいが、親切そうに近づいてきて自尊心を折ってくる輩や自由を奪う「世間の空気」も十分に「難」である、と気づかされる。
たしか山でも自分が遭難していることになるべく早く気付くことが大切とされていたはず。自分が遭難していることに気付かないままだと、対策できず最悪の場合死に至る。
本書にはさらに人生において遭難したときの対処法がたくさん載っているし、その対処法は山でのそれと通底するものがある。
何があっても冷静であること、人に助けを求めること、助け合える人と寄り添うこと。
このエッセイを読んで、目の前のトラブルを笑いに転化するというのはパニックを克服するいい方法なんだな、と気づくことができた。
私も人生でにっちもさっちもいかなくなったらまず笑い話にしよう。そんで夫とつまらん事でニヤニヤしながらやっていこう。
とりあえずアルテイシア氏の夫氏いわく「オナラのできない家は滅びる」そうなので、積極的に家で放屁する生活を続けていきたいと思う。